本とgekijou

書評のようなものを中心としたblog

メンタルヘルス

「震災で一儲けするバカども、ネットで追悼するバカども」「ネットって成長することと相性がわるい」「心的外傷後成長」

三月になるとイライラして、しかたがない。意識的にネットを遮断しないと、ダメだな。 そりゃ私のごときだって、震災の被災者や、ご遺族が、底知れぬおもいを抱えているのを知っているし、毎年、この時季ともなれば傷口がうずくようになるのかもしれない、と…

ツジコノリコ(Tujiko Noriko)東京公演(渋谷WWW)――カミュの手帖を添えて

それは夢の島であるのよりは真夜中にグロテスクな光の祝宴をもよおす、一種の工場に似ていた。MDの時代にはもう、そしてネット時代になって、浜辺の砂金をかぞえるのよりも途方もない量で殺到する、IDMの音楽たちの話である。たしかに私には、それらの…

「個とか私はいらない」――ブーバー「忘我の告白」、「ミハーイル・バフチーンの世界」、「解離の舞台」

素朴な疑問なのだが、対話と言い出すひとにかぎって、自己帰属感がひどく薄いのはなんでなのだろう――。と、私がここで念頭においているのは、解離性障害の解離という概念であり、バフチンとマルティン・ブーバーの存在である。バフチンはポリフォニー小説と…

「言葉のやりとりがまるでない」――長沢光雄「風俗の人たち」

すっかりと映画ぐせがついてしまって、武蔵野館のついでに新宿TOHOシネマズと蜜月になるうちに(おもに日比谷にかよっているのだけれども、TOHOシネマズは新宿のも超大型劇場で、夜おそくまでやっているから、いいものである。隣だかのIMAXでぐ…

「私のせいじゃない」――高見順「悪女礼賛」、岡田尊司「愛着障害」、川端康成「みづうみ」

離人症者として現実感を喪失しているため、また虐待等の既往があるため(基本的信頼感の欠如というタームがある)、ひとに、恋愛の感情をどうも抱くことができていない。どうも私にはそれができないらしいのだ。昔はそれがあった筈なのが今こそそれが、手に…

「くだけたガラスをわたる風の跫音」――エリオット「荒地」、島尾ミホ「海辺の生と死」、ピーター・アクロイド「T・S・エリオット」

四月はいちばん無情な月 死んだ土地からライラックを育てあげ 記憶と欲望とを混ぜあわし 精のない草木の根元を春の雨で掻きおこす。T・S・エリオット「荒地」深瀬基寛訳 荒地 (岩波文庫) 作者:T.S.エリオット 岩波書店 Amazon 統合失調症の母が二年前、脳…

「柔らかい穏やかな光の地帯」――サガン、アンドレ・モーロワ

ものうさと甘さがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。その感情はあまりにも自分のことだけにかまけ、利己主義な感情であり、私はそれをほとんど恥じている。ところが、悲しみはいつも高尚な…

「混沌の中に秩序を発見すること」――メアリー・ウォーノック「想像力」、岡野憲一郎「快の錬金術」など

日本の純文学、といった時、ステレオタイプとして連想される性質の文章をひとつ、引いてみよう。この場合ステレオタイプに過ぎる、のであったが。 彼は剥げた一閑張の小机を、竹垣ごしに狹い通りに向いた窓際に据ゑた。その低い、朽つて白く黴の生えた窓庇と…

文学賞を獲って起こったこと――鹿毛雅治編「モチベーションを学ぶ12の理論」、アルフィ・コーン「報酬主義をこえて」、西村賢太「雨滴は続く」

小説家になどなったところが何になるのだったか。 実際にはどうなるのか? はれて新人賞を受賞をし、賞金が五十万程度、受賞作が単行本化されて十万二十万程度の印税、以降大体一枚五千円程度の原稿料(源泉徴収で一割抜かれる)で芥川向けの中篇を書かされ…

「ホントのことってのと、どうしようもないことっての」――末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」グ スーヨン「偶然にも最悪な少年」

いまとなってはどうでもいいことだが、私は統合失調症の母親と、アル中の父親のもとに育てられ、小学生時代の教員からは心身にわたる虐待を受けて育った。そのような私は、傷を語ることにはいつでも困難が伴う、とよく知ってきたつもりの私であった。 芸術は…

「山の手線の電車に跳飛ばされて怪我」――志賀直哉、「トラウマの過去」、「定刻発車」

志賀直哉には今でいうボーダーラインパーソナリティ障害的な気質が、多分にあったのだろう。彼の筆致自体は落ち着いているのが、おもしろい。物事をラベリングするかのように、気分で白か黒かをつけてしまったり、唐突に「キレる」ことをしたりするのだが、…